DIYオーディオ製作:SURGEON 25(パート 2)ー コア回路設計と、その設計が意味するもの
- Eitan Brown

- 5 日前
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更新日:5 日前

前回の Part 1 では、Surgeon 25 がどのような経緯で生まれたのか、その背景について書きました。今回はそこから一歩踏み込み、このユニットの中身、つまりどのような回路構成を持ち、どんな設計判断が積み重なって現在の形になっているのかを見ていきます。そして、それらの判断が実際の製作工程にどのような影響を与えたのかについても触れていきます。
コア設計について

Part 2 では、Surgeon 25 のコアとなる回路設計と、それを正確に形にするために必要だった作業について扱います。前回はプロジェクトの出発点を中心に書きましたが、今回はどのような回路アーキテクチャを基盤としているのか、どこまでが既存設計として与えられていたのか、そしてなぜその理解が不可欠だったのかに焦点を当てます。ここでの理解が、その後のすべての判断の前提になっています。
設計の系譜と継承された回路構造

Surgeon 25 の中核は、Sontec 250A 系のパラメトリック EQ トポロジーをベースにした設計です。この回路は、長年マスタリングの現場で使われ続けてきた理由がはっきりしています。挙動が安定しており、必要な柔軟性を持ちながらも、過剰な操作を促さない。そのバランスが、微細な調整が求められるマスタリング用途に非常によく合っています。

このプロジェクトでは、回路の基本構造は最初から決まっていました。Hieg Khatcherian が設計したメイン PCB を、Uroš Đorđević から提供してもらい、それを前提として製作を進めています。バンド数や各バンドの動作、ゲインや周波数制御の考え方は、その設計から引き継がれたものです。私の役割は、それを忠実かつ正確に組み上げることでした。Uroš の助言を受けながら、回路の振る舞いを十分に理解した上で、実装方法やレイアウト、システム全体に関わる判断を行っています。私自身が加えた変更は、あくまで回路の外側――実装、部品選定、電源、操作系、全体の統合といった部分に限定しています。
チャンネル構成と信号の流れ

回路レベルで見ると、Surgeon 25 の各チャンネルは完全に独立したパラメトリック EQ として構成されています。左右それぞれに同一構成の 5 バンド・フルパラメトリック EQ があり、全帯域をカバーします。ローとハイのバンドにはベル/シェルフの切り替えがあり、フロントパネルのスイッチ操作によってリレーで切り替えられます。これにより、信号経路そのものを変えることなく、用途に応じた動作を選択できます。
信号はバランス入力段から入り、5 つのフィルターバンドすべてに並列で送られます。バンドを直列に重ねる構成ではなく、各バンドが同じ入力信号を独立して処理し、その出力を最終的に加算する方式です。この並列構造は、この設計の大きな特徴のひとつで、あるバンドの操作が他のバンドの動作条件に影響を与えにくく、複数バンドを同時に使った場合でも挙動が読みやすくなります。
各バンドには、周波数、ゲイン、Q(帯域幅)の 3 つの操作があります。周波数は作用する帯域を決め、ゲインはブースト/カット量を、Q は影響範囲の広さを決定します。これらはすべて連続可変ではなく、ロータリースイッチによるステップ式で実装されています。処理後の信号は加算され、最終段を経てバランス出力として取り出されます。この基本的な信号の流れは、バンドの設定に関わらず一貫しています。
デュアルモノ構成という選択

初期段階で下した重要な判断のひとつが、このユニットをステレオ固定ではなくデュアルモノ構成にすることでした。これにより、通常のステレオ EQ として使うだけでなく、後にミッド・サイド処理を組み込んだり、必要に応じて 2 台のモノ EQ として使うことも可能になります。
実装面では、この選択には明確な影響がありました。ステレオかデュアルモノかに関わらず、正確な部品選定とチャンネル間の一致は不可欠です。重要なのは、左右で同じスイッチ位置を選んだときに、同じ電気的動作をすることです。デュアルモノにしたことでその要件が変わったわけではありませんが、実装方法は変わりました。1 つのスイッチに複数極を持たせる代わりに、各チャンネルに独立したスイッチを使うことになり、スイッチ数が大幅に増えました。その結果、機械的な故障リスクが増し、フロントパネルのレイアウトはほぼ余白ゼロの設計になりました。
この判断は、その後の工程すべてに影響しています。スイッチの組み立て、配線計画、将来的な MS 実装の余地、検証やキャリブレーションの進め方まで、プロジェクト全体の精度要求を決定づける要素でした。
ステップ式コントロールと操作思想

もうひとつの重要な特徴が、すべての操作系をステップ式にしたことです。マスタリング用途では、リコール性、左右チャンネルの完全な一致、そして意図的に選ばれた有限の選択肢が重要になります。各クリックは明確に定義された変化を意味し、曖昧さがありません。
ステップ式はワークフローにも影響します。中途半端な位置を探す必要がなく、あらかじめ定義された選択肢を順に評価する形になります。結果として、判断が早くなり、意図が明確な操作につながります。
この設計では、ゲイン、周波数、Q のすべてがロータリースイッチで選択されます。そのため、各ステップが毎回同じ挙動を示し、左右チャンネルでも完全に一致する必要があります。わずかなばらつきでも、マスタリングの微調整ではすぐに聴感上の違いとして現れます。
ただし、その代償として、EQ の性格の多くが組み立て段階で決まります。ロータリースイッチには、各ポジションごとに選別された抵抗を実装する必要があり、時間もコストもかかります。フロントパネルの制約も厳しくなります。それでも、この点は妥協できない要素でした。正確なチャンネル一致、確実なリコール性、迷いのない操作感は、この EQ にとって不可欠だったからです。
抵抗マッチングという基礎作業

ステップ式コントロールを採用した結果、抵抗のマッチングは避けて通れない工程になりました。このビルドでは合計 30 個のロータリースイッチを使用しています。特に周波数スイッチは 2 極構成で、2 つの抵抗ネットワークが同時に切り替わります。ここでズレがあると、実効周波数やレスポンス形状が変わってしまいます。そのため、左右チャンネルと両極を含めた 4 点マッチングが必要でした。
スイッチ上に実装された約 800 本の抵抗、プロジェクト全体で約 1,000 本の抵抗を選別するために、1 万本以上の抵抗を 1 本ずつ測定しました。ほとんどの値は 0.01% 以内で揃え、難しい値でも 0.02% 以内に収めています。
この工程だけで、全体の約 2 か月を要しました。地味で根気のいる作業でしたが、この後のすべての工程に通じる基準をここで作ることになりました。
システム設計への移行

回路構成と操作系が固まった段階で、焦点は個々の部品からシステム全体へと移っていきます。電源、グラウンディング、筐体構造、配線、そしてミッド・サイド機能の統合。Part 3 では、そうしたシステムレベルの判断がどのように形になっていったのかを掘り下げていきます。




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