DIYオーディオ製作:SURGEON 25(パート1)
- Eitan Brown

- 1月12日
- 読了時間: 8分
精密なマスタリングEQを、一つひとつの判断の積み重ねで作る

Surgeon 25 側面ビュー
Surgeon 25 は、一つの会話から始まりました。
セルビア出身のオーディオエンジニア、Uroš Đorđević と出会い、彼が自作したいくつかの機材を見せてもらう機会がありました。その中の一つが、Sontec 250A のトポロジーをベースに改良を加えた、デュアル構成の5バンド・パラメトリック・マスタリングEQでした。回路図およびメインPCBは Hieg Khatcherian によるものです。
Uroš はすでにそのユニットを完成させ、実際に使用していました。そして、このプロジェクトに取り組みたいのであれば、回路図と基板を共有してくれるだけでなく、制作の過程を通してサポートすることを申し出てくれました。その約束は、最後まで忍耐強く、そしてとても誠実に守られました。
当時、すでに数年にわたってオーディオ機器のDIYに取り組んでいました。マイク、マイクプリアンプ、DI、500シリーズ・モジュール、ラックなどです。多くはキット形式で、ドキュメントも整っており、最初から最後まで比較的見通しの良い制作プロセスでした。また、いずれはマスタリング用EQを作りたいとも考えていました。
このプロジェクトは、道具も好奇心も、そして長期的なコミットメントを受け入れる覚悟も揃ったタイミングで、自然と目の前に現れたものでした。
この投稿は、Surgeon 25 の制作プロセスを記録する全5回シリーズの第1回目です。ここでは概要として、専門的な知識がなくても読める内容を意識しています。以降の記事では、回路構成、システム設計、メカニカルデザイン、キャリブレーションなどについて、より踏み込んで扱っていきますが、今回はまず、このプロジェクトがどのように始まり、どのように形になっていったのかを伝えることが目的です。
なぜDIYなのか、なぜこのEQなのか、そしてなぜ今だったのか

フロントパネル中央部(青色のメイン電源LED、赤色LED付きバイパススイッチのペア、青色LEDカバー+内部に赤色LEDを備えたMid-Side/Dual-Monoスイッチ、ベル/シェルフ切替スイッチ)
精密で、透明度が高く、マスタリング用途に適したEQを作りたいと考えていました。この設計は、その目的に非常によく合っており、すでに実績もありました。Sontec 250A の系譜は、クセの少ない動作、慎重に設定された操作レンジ、そしてごく小さな調整でも確実に効果を発揮できる点で知られており、マスタリング用途との相性が非常に良い設計です。
また、この回路はすでに実際に機能する形で存在しており、制作経験者からのサポートも得られる状態でした。その点も、大きな意味を持っていました。
DIYオーディオの制作自体が好きで、このプロジェクトは次のステップとして自然に感じられた、というのも正直なところです。
理解から覚悟へ

メインPCB(プリント基板)
部品を注文する前に、まず1〜2か月ほど、徹底的に回路を読み込む時間を取りました。
回路図を何度も見返し、信号の流れを追い、各バンドの相互関係、ゲイン処理、バイパスの構造、電源やグラウンディングに関する前提条件などを理解していきました。目的は、回路を改変することではなく、責任を持って組み上げられるだけの理解を得ることでした。
最初の大きな部品注文を出した時点で、後戻りはできなくなりました。このプロジェクトは「やるかやらないか」ではなく、「やり切るかどうか」の段階に入ったのです。中途半端に終わらせるという選択肢はありませんでした。
そのため、制作ペースは意図的にゆっくりと進めました。締め切りは設けず、ルールは一つだけです。
作るなら、できる限り良いものを作る。

組み上がったPCB(測定器で測れる限りの精度で、左右チャンネルの部品を完全にマッチング)
デュアルモノという構造的選択

完成した Surgeon 25 のフロントパネル
初期の段階で下した重要な判断の一つが、このユニットをステレオ固定ではなく、デュアルモノ構成で作ることでした。
この構成により、以下の使い方が可能になります。
ステレオ・マスタリングEQとして
Mid-Sideモードで
2台の独立したモノEQとして
構造的には、操作子も信号経路もすべて二重になり、スイッチや配線の量も大幅に増えます。結果として、後になって問題が表面化する可能性も高くなります。
同時に、この構成は部品精度への要求を非常に高めます。スイッチが独立していようと多連であろうと、左右チャンネルの挙動を揃えるためには、部品の厳密なマッチングが不可欠です。この点が、このプロジェクト全体を通して重要なテーマの一つになりました。
スイッチ組立と抵抗値マッチング

周波数・ゲインスイッチ(抵抗を実装済み)
このプロジェクトでは、左右チャンネル合計で 30個のロータリースイッチを使用しています。それらに必要な抵抗の数は、750本以上に及びます。
スイッチを正確に組み上げるため、1万本以上の抵抗を一本ずつ手作業で測定し、左右チャンネルで可能な限り挙動が揃うよう、ペアやクアッドに分類しました。この作業だけで、配線を除いて1か月以上を要しています。
マスタリングでは、わずかな不整合が積み重なって大きな差になります。左右の差は、メーターに現れるよりも先に耳で感じられることが多いため、最初から高い精度で揃えておくことが、全体の予測性を高めることにつながります。
この工程は単調で時間のかかる作業でしたが、後工程すべての土台となる重要な部分でした。

組み上がったゲインスイッチ
切り替え可能なMid-Sideモード

実装されたMid-Side基板
Mid-Side処理は、通常の左右ステレオ信号を、**ミッド(左右共通成分)とサイド(左右差分成分)**に変換する手法です。これにより、通常のステレオ処理では不可能な空間的・音色的な調整が可能になります。
使用したMSエンコーダ/デコーダ基板は KA Electronics 製で、変換自体は非常にクリーンです。ただし、この基板は常時MS動作を前提とした設計でした。私は、フロントパネルのスイッチ一つで、ステレオとMid-Sideを切り替えられる構成にしたいと考えていました。
そのため、複数のバランス信号をMSマトリクスに出し入れできるリレー制御のスイッチング回路を設計する必要がありました。ここから、このプロジェクトは単なる組立作業を超え、回路設計とPCB設計の領域へと広がっていきました。

リレースイッチャー基板(初めて設計したPCB)
電源設計:環境と目的への適応

組み上がったPSU(電源ユニット)
日本の商用電源は 100VACであり、トランス選定や電源設計に直接影響します。また、静粛性も重要な目標でした。
友人である Shun Yoshino が、信頼できるオーディオエンジニアによる高級オーディオ機器向けのリニア電源キットを見つけ、推薦してくれました。検討の結果、電源部を別筐体として構成することにしました。
これにより、メインユニット内の磁気的・機械的干渉は減少しましたが、筐体が一つ増え、グラウンディングやDC電源の伝送方法など、新たな検討事項も増えました。

PSUとメインユニットを接続するDC用アンビリカルケーブル(4ピンコネクタ)
これらの問題は特別に珍しいものではありませんが、非常にシビアです。電源やグラウンドの小さなミスは、後になってノイズや不安定動作、原因不明のトラブルとして現れます。

換気穴を設けたPSU筐体内部
組立を超えた学び
いつの間にか、このプロジェクトは「EQを作ること」だけでなく、システム全体を理解することが中心になっていました。
リレーボードの設計では、回路図作成とPCBレイアウトを学ぶ必要がありました。その基板を組み込むには、信号経路、グラウンディング、メカ的制約を同時に考える必要があります。フロント/リアパネルの設計では、ノブ間隔、取付深さ、将来的なメンテナンス性まで考慮しました。
これらは最初から計画していたわけではなく、必要に応じて自然と求められたものです。
責任が増えるにつれ、問題は個別ではなくなり、すべてが相互に関係していく――それが、このプロジェクトから得た静かな教訓の一つです。
制作途中の現実

美しい混沌
すべてが最初からうまくいったわけではありません。
電気的な問題に見えたものが、実はメカ的な原因だったこともありました。見た目には問題のないハンダ付けが、実測では不安定だったこともあります。スイッチの挙動がおかしく、原因が配線ではなく物理的な歪みだったこともありました。

分解されたロータリースイッチの「開心術」
測定、調整、テスト、試聴、再測定。
チャンネル間比較、バイパス確認、電源オン/オフ時の挙動チェック。
この工程は簡単に要約できるものではありませんが、完成品への信頼は、まさにここで築かれました。

組立完了
Surgeon 25 が意味するもの
Surgeon 25 は、数多くの判断の積み重ねによって形になりました。その多くは小さく、時間のかかるものです。
既存の設計を基に、必要な部分を拡張し、求められる形に適応させ、用途にふさわしい精度と配慮をもって組み上げました。全体を通して一貫していたのは、必要なことを学び、問題が現れたら向き合うという姿勢でした。
このプロジェクトは、私にとって大きな学びの場でもありました。
今後について
この概要記事を起点に、以下の4つの記事で、より具体的な内容に踏み込んでいきます。
Understanding the Core Design
受け継いだ設計とその挙動
Architecture and Modifications
デュアルモノ構成、Mid-Side統合、リレー制御
Power, Grounding, and Mechanical Design
外部電源、筐体設計、配線方針
Assembly, Calibration, and Verification
発生した問題、解決方法、実使用での挙動
それぞれの記事は、この概要を土台にしながら、全体像を見失わないよう構成していきます。
結び
これは、慎重に進めたプロジェクトでした。
外から見ると進んでいないように見える作業を繰り返し、後になって初めて意味を持つ細部に時間をかけました。必要に応じて新しいスキルを学び、周囲の状況が変わるたびに、これまでの判断を見直しました。
Surgeon 25 は、8か月にわたって一つひとつ慎重に積み重ねられた判断と、Uroš Đorđević の惜しみない指導と専門的な助言によって完成しました。
この先の記事では、その過程をさらに詳しく掘り下げていきます。




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