SURGEON 25:マスタリングEQ製作(パート 4)ー 電源とグラウンド設計とシステム全体の統合
- Eitan Brown

- 2月3日
- 読了時間: 10分
更新日:2月26日

電源とグラウンドになぜ独立した章が必要なのか
ここまでの Surgeon 25 の作業は、フィルターやスイッチング、コントロールロジックなど、主に信号経路に集中していました。電源とグラウンドは回路図の中では常に存在しているものの、「後で考えればいいもの」として無意識に後回しにしていた部分でもあります。その「後で」が、今です。
電源とグラウンドは単なる裏方ではありません。ノイズフロア、安定性、安全性、そして完成後の挙動の予測しやすさまで、すべての前提条件を決める要素です。ここでのミスは音が悪くなるだけでなく、実際の安全リスクにもつながります。
この工程は、正直なところ一番不安を感じていた部分でもあります。電気工学のバックグラウンドがあるわけではなく、商用電源にはそれ相応の緊張感があります。資料を読み返し、メモを取り、何度も考え直しながら進めましたが、理解が定着するまでに時間がかかる概念も多くありました。
だからこそ、電源とグラウンドには独立した章が必要でした。目標はシンプルで、静かで、安定していて、安全で、そして自分自身が納得して信頼できる構成を作ることでした。
電源の選定

友人の吉野俊介(Shun Yoshino)に相談し、電源についてアドバイスをもらいました。彼は日本で最も歴史のあるオーディオ誌の編集長として、日本のオーディオ事情や、実際にエンジニアたちがどんなものを作り、使っているかを深く理解している人物です。プロジェクトの内容と要件を伝えたところ、高品質なオーディオ用途向けに設計されたリニア電源キットを紹介してくれました。
そのキットは電気的な要件を満たしており、同時に信頼できる人物からの推薦でもありました。その後、Uroš にも確認し、この回路に適しているかを相談したところ、問題ないという判断でした。
もうひとつ実用的なポイントとして、トランスのジャンパー配線を変更するだけで異なる AC 電圧に対応できる点がありました。将来ユニットを海外で使用することになっても、電源を作り直す必要がありません。

この時点では、電源は本体シャーシ内に収める前提で考えていました。しかし、いくつか無視できない疑問が浮かんできました。内蔵トランスによるノイズはどれくらいになるのか。すでに密集しているフロントパネルのどこに電源スイッチを置くのか。多数のスイッチに向かうオーディオ配線のすぐ横を、AC 電圧の配線が走ることに本当に納得できるのか。AC 電源線は、近くのオーディオラインにノイズを押し付けるのが得意です。
Sontec 系のビルドでは、電源スイッチを背面に配置する例もあります。それは確かに作りやすい方法です。ただ、このユニットはラック常設が前提だったため、背面に手を伸ばして電源を入れるのは現実的とは言えません。おそらく、入れることも切ることもなくなっていたと思います。
そうした疑問を抱えたまましばらく考え続け、最終的に行き着いた結論はひとつでした。電源は本体の外に出すべきだ、ということです。
電源を本体の外に出すという判断

電源を外部化することで、いくつかの問題が一気に解決しました。オーディオ回路や密集したスイッチ配線と同じ筐体から、トランスと商用電源配線を切り離すことができます。フロントパネルに無理やり電源スイッチを配置する必要もなくなりました。そして何より、多数のオーディオラインのすぐ横を AC 電圧配線が走る構成を避けることができました。
もちろんトレードオフはあります。外部電源にすることで筐体がひとつ増え、金属加工の作業量も増え、二つの箱を安全かつ確実に接続する方法を考える必要が出てきました。筐体間のグラウンドや 0V リファレンスの安定性についても、より慎重な設計が求められます。
いかにも自分らしい判断ですが、まだ理解の途中だった電源とグラウンドを、あえてより複雑な構成にしてしまいました。アンビリカルケーブル、複数のグラウンド、二つ目の筐体。決して楽な道ではありませんでしたが、問題を避けるのではなく、正面から向き合うきっかけになりました。
その選択は、当然ながら作業量も増やしました。電源筐体には通気が必要で、想像以上に多くの穴を開けることになりました。パネルのレイアウト、穴あけ、組み立て。理論的に面白い作業ではありませんが、どれも欠かせない工程でした。地道で反復的な作業です。

外部の電源ユニットは堅牢な作りで、十分な通気が確保され、安定した DC 電圧を供給していました。その電源を、周囲のノイズの影響を受けないよう配慮しながら、クリーンな状態でメインユニットへどう届けるかが、次の課題でした。
アンビリカルケーブル:電源を本体へ引き込む
その役割を担うのが、電源筐体から本体へ DC 電圧とグラウンドを送るアンビリカルケーブルです。既製品を使うのではなく、導体数や太さ、シールド構成、取り回しを自分で管理するために自作しました。

アンビリカルには ± 電源、共有された 0V リファレンス、そして独立したシャーシグラウンドが含まれています。内部には モガミ 2549 ケーブルを 2 本使用しています。2549 は本来マイクケーブルとして使われるもので、優れたノイズ耐性で広く知られています。各ケーブルは、絶縁されたツイストペア導体が銅シールドで包まれた構造になっています。この用途では、それぞれの導体ペアを使って一つの電源レールと対応する 0V を伝送しています。両ケーブルの 0V 導体は両端で結線され、単一のリファレンスとして扱われます。さらに、この 2 本のケーブルを撚り合わせ、PSU シャーシと本体シャーシを接続する緑黄のアース線を並走させています。銅シールドは PSU 側のシャーシに接続されており、仮にノイズが侵入しようとしても、そこで受け止められ、そのままグラウンドに落ちます。2549 を 2 本使うのは正直なところ過剰ですが、その分、アンビリカル経由でノイズが入り込むことを心配する必要はありません。

これらすべての配線を、両端の 4 ピン XLR コネクタに収める必要がありました。本来想定されている使い方ではありません。さらに、XLR のブート部分が単一ケーブル前提で設計されていることを完全に見落としていました。3 本束ねてメッシュで覆った状態では収まりません。ブートに切れ込みを入れて無理やり広げ、最後に締め込む作業では手にマメができました。最終的には問題なく機能していますが、次に作る時(予備用に必ず作ります)は、もっと余裕のあるブートを使うつもりです。

電源はついにメインユニットまで届きました。次はグラウンド。言葉通り、自分が一番「足元が定まっていなかった」ところです。
グラウンド:AGND、PGND、シャーシ、スターグラウンド

電源分配が疑問を生んだとすれば、グラウンドは慎重さを強制してきました。回路図にはすでに AGND(オーディオ・グラウンド) と PGND(パワー・グラウンド) の区別があり、そこにシャーシグラウンドと保護接地が加わります。いくつのグラウンドが存在し、それらがどこで合流すべきかを考える必要がありました。
個々の概念は理解できても、複数の基板と二つの筐体にまたがって実装するとなると、想像以上に難易度が上がります。難しかったのは情報不足ではなく、システム全体を同時に頭の中で把握することでした。
グラウンド経路は目に見えません。電流がどこを戻るのか、ノイズがどのように回り込むのかは直感的には分かりにくいものです。配線を追い、回路図を見直し、実際の配線と自分の理解が一致しているかを何度も確認しました。
その中の一要素が、バランス I/O コネクタのピン 1 でした。シールドの接続方法、シャーシグラウンドとの関係、AES-48(Audio Engineering Society:オーディオ工学協会)の考え方を理解することで、信号グラウンド、シャーシグラウンド、保護接地の役割分担が整理されていきました。何か一つのひらめきがあったわけではなく、少しずつ理解が積み重なっていった感覚です。

最終的に、各グラウンドの関係性が見えてきました。そこから、どこをスターグラウンドとするかを決める段階に進みました。
ループブレーカーとグラウンド設計
複数のグラウンドが存在する以上、グラウンドループを作らずにそれらを結ぶ方法が必要になります。ここで登場するのがループブレーカーです。Rod Elliott が 1999 年に書いたグラウンドとループブレーカーに関する記事を参考にしました。

この構成では、スターグラウンドがループブレーカーを経由してシャーシおよび保護接地に接続されます。通常動作時、ループブレーカーはほとんど何もしていません。安全に基準電位を共有しつつ、電流を流さない状態です。異常やサージ、グラウンドループによって電流が流れようとした場合に、それを制限・遮断します。結果として、安全性を保ちながら、ハムやノイズの発生を抑える役割を果たします。
DC 電源の引き込みと分配
電源は本体に届きましたが、内部での分配方法はまだ決まっていませんでした。電源は 4 枚の基板、つまり 2 枚の EQ 基板、MS 基板、リレー基板に供給する必要があります。すべて同じ ± 電源と安定した 0V リファレンスが必要です。
配線が分かりやすく、メンテナンス時に切り離しやすく、トラブル時にも原因を追いやすい構成にしたいと考えました。ポイント・トゥ・ポイント配線だけで解決するのは、どこか不安定に感じられました。電源分配とグラウンドは密接に関係しており、まとめて扱う方が理にかなっています。

見覚えのある流れです。どうやら、また基板を作ることになりそうでした。
DC 分配と 2 枚目の基板設計
DC 分配、グラウンドリファレンス、ループブレーカー。これらはいずれも密接に関係しており、同じ場所にまとめる必要がありました。概念的にも密接に結びついており、物理的にも近くに配置するのが自然です。配線や端子台に分散させるのではなく、ひとつの基板にまとめることにしました。

これが、回路図と PCB の両方を自分で設計する 2 回目の挑戦でした。KiCad にも多少慣れてきてはいましたが、まだ試行錯誤の連続でした。全体構成は比較的スムーズに固まりましたが、ミスがなかったわけではありません。
ひとつの回路ミスは、ユニット全体を組み上げて通電するまで気づきませんでした。修正には部品を浮かせ、コンデンサのリードに直接配線を引き直し、元のパッドと接触しないよう慎重に絶縁する必要がありました。写真で見える大容量コンデンサが少し浮いて傾いているのは、そのためです。

見た目は決して美しくありませんが、確実で安全で、確認しやすい構成です。この段階では完璧さよりもそちらを優先しました。
今回は基板色を紫にしました。メイン基板と MS 基板の緑、リレー基板の赤、分配基板の紫と、Surgeon 25 の内部はだいぶカラフルになってきました。

まとめ

電源とグラウンドが、ようやく具体的な形になりました。配置を指差しながら説明できる状態になり、グラウンド経路を追い、なぜそうなっているのかを迷わず理解できるようになりました。
この工程は音作りや音色の話ではありません。すべての土台となる部分を信頼できるようにするための作業でした。静かな動作、予測可能な挙動、そして基本的な安全性は地味ですが、他のすべてを安心して成立させるために不可欠です。
電源とグラウンドが整理されたことで、ようやくもっと楽しい工程に目を向けることができました。次はパネル設計です。見た目と操作性をどう両立させるか、限られた金属板の中にどれだけ意図を詰め込めるか、その話に入ります。





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